『ましろ色シンフォニー』をクリアして

 レビューに向けての評価です。このシナリオ評を少しリテイクして、レビューにも流用するかもしれません。

シナリオ

 たしかに「良い話」が多かったんですが、「良い話だったな」という感想以上のものは得がたいです。たとえば物語を読んで号泣したり、クリア後に何か考察したりといった、後に残る作品ではないということ。前回の記事通り、「思索にふける必要性はなく、素直にドラマとして受け取」るべきです。以下、私のプレイ順に感想を。



愛理・・・ただひたすらに甘いシナリオ。典型的なツンデレっ娘。
 つばすさんのキャラで言うと『青空の見える丘』の伊織嬢を髣髴をさせるんですが、愛理は完璧さに磨きがかかっていました。ただ、完璧を求めるが故の不器用さも兼ね備えていて、それがまた、彼女の魅力でもあります。「これでもか!?」というくらい甘ったるいです。
 このお話では、思わず愛理の相談役になっていた桜乃にも惹かれてしまいました。


みう・・・紗凪との三角関係になるのかなと思ってたんですが、そうならないのが、このシナリオの優しいところ。天羽みうと動物たち(主にぱんにゃ)の暖かくも切ないストーリーを追える話でもあり、彼女を心から敬愛する乾紗凪をかっこいいと思える話でもあり…。唯一、色々な見方のできるシナリオですね。
 また、みうの母親、天羽結子さんも魅力的なので、惹かれるプレイヤーは多かろうと思います。期待していたぱんにゃが大活躍だったので、概ね満足です。


桜乃・・・実は義妹。昔の夢。同い年の子から告白される兄。葛藤。恋心に気づく自分。
 こんなお約束のシチュエーションばかりで構成されてるシナリオです。やはり甘いシナリオでした。ただ、愛理と比べると、桜乃のほうが恋人になってからのシチュエーションがじれったいので、いちいち面映い気持ちになります。ところどころ、エキストラの影響で暗い雰囲気になりますが、それを吹き飛ばすくらい甘いという印象。善人あってこそのエンディングです。
 愛理の立ち位置が絶妙で、みうルートの紗凪のようにかっこいいです。


アンジェ・・・主従関係と恋人関係の相違というのが、このお話の争点。ちょっと短めです。
 エロゲーには珍しく、女の子が恋する瞬間というのが克明に描かれているのが特徴的。詳細は伏せるとして、その場面は特に新吾がかっこよく映ります。全体的な感想としては、愛理や桜乃に比べてこそばゆい話でした。
 桜乃の立ち位置が素晴らしい。良い意味で、遠まわしにカップルをいじる役回りをしていました。桜乃はこうなるんだろうなと予想していたので、思わずほくそ笑んでしまいました。


総評・・・どのルートもじれったい&甘い事には変わりありません。ただし、微妙にアマアマの度合いが違うと感じました。
 愛理は本当に甘ったるすぎる程デレデレしています。それに対し、アンジェはその短さに起因してか、意外とあっさり。桜乃とみうは少しビターが入っており、ややダークな感じを受けますが、ドロドロという程の事はありません。
 テキストレベルに高低があるというわけではないので、ここらへんは好みが分かれそうです。つまり、シナリオには甲乙つけがたいかと。好みの問題でしょうけれど、私はみうルートを推します。

 ともかく、全てが甘いシナリオであるのは間違いなく、どれもそれなりに楽しめました。萌えゲーの中にあって、突出した物語がないという点は評価できると思います。



 繰り返しになりますが、つばすさんの好きなエロゲープレイヤーにはオススメです。「ぱれっと塗り」には脱帽するばかり。ただ、イベント絵の複数回使用がみうルートでは顕著なので、そこが少し目に付くかもしれません。



音楽

 『さよなら君の声』の存在感が大きいです。目立つ曲は少なくとも、全体的にそつがない曲が多く、場面場面の使い方等にも全く違和感はありません。聞き心地のよいやわらかな曲調を持つ曲が多いです。
 声優は個人の好みと考えているので、ここに関しては割愛します。私が聴いていた分には不自然な点はありませんでした。



ぱんにゃ

 今年度最強のマスコットキャラクター。ぬいぐるみ化にも納得。いやまさか、マスコットに惹かれるとは思ってませんでした。「うりゅー」の破壊力が抜群です。



総評

 学園モノという王道を、ただひたすらに直進した作品です。右にも左にもぶれておらず、深いテーマ性の読み取りは不要。ファンタジーじゃない分、愚直なまでに王道を描ききっています。シナリオをドラマとして読み進める中で、いかに甘いシチュエーションに浸れるかが評価の分かれ目となっています。


 全体的に、この物語は善人を中心に構成されているので、ダークな展開を想起させる場面でも、自然に清い方向へ動いていきます。みうルートは唯一「色がつきそうな*1 」シナリオだったんですが、紗凪が一歩引いた見方をすることで、それも白へと漂白されています。そういった意味では、みうルートこそが最も「ましろ色してる」と感じました。
 また、どのルートに入っても、ヒロイン以外の女の子が、かわらず魅力的でいてくれるのが、今作の最も好きな点でした。愛理ルートの桜乃に、アンジェルートの愛理や桜乃に、みうルートの紗凪に惹かれても、全く不思議ではありません。それくらい、ルート毎の引き立て役に降格した女の子の振る舞いがいいですね。

 主人公が童貞ゆえにエッチでかなり失敗するのはご愛嬌。それでも、見ていて不快な気持ちにならないのが不思議なところです。苦労性の人瓜生新吾の人となりをよく表していると感じました。優柔不断というよりは、『気配りのすすめ』を体現している存在だから。せっかちにならずに済んだのは、彼が善人のなかでも、筋金入りの善人だったからでしょう。


 惜しむべき点もあります。何度振り返っても良い話以上の評価をひねり出せないのが、残念と言えば残念でした。ほんわかとした雰囲気をお望みのプレイヤー、エロゲーをはじめたてのプレイヤー、少しずつ進めてクリアするプレイヤーにとってはうってつけの作品です。


 これはプレビューなので、批評空間に載せる際にはもう少し煮詰めるかもしれません。一言で感想を問われると難しいですね。シャーリーさんからご指摘があり、紗奈→紗凪に訂正いたしました。ありがとうございます。

*1:三角関係が容易に想像できるため。他の3つのシナリオは、殆ど一直線の恋愛劇と考えられる。