『キスと魔王と紅茶』プレビュー

 『キスと魔王と紅茶』を全クリしたので、メモの延長線っぽくまとめてみました。やはりレビューに転用します。レビュー期限は11/27です。書き終わるまで、新作のバルドスカイをプレイしない方向でいきます。

シナリオ

 大部分のお話は右から左へと耳を通り抜け、すでに印象に残っていないルートもちらほらあります。あけすけに言うならば、「キスも魔王も紅茶もたいして意味ないんじゃ…」と、クリア後すぐに呆然としてしまう作品。実に……ええ、実にま〜まれぇどらしいんですが、なまじ絵がいいだけに、どうしてもお話の部分が貧相に思えてしまいます。「絵師の無駄遣い」って月並みな評価にも納得がいきました。
 シナリオがどうとかこうとか、たいして特筆できる点はないんですけれど、リセリシアスだけは作中では別格の扱い。どのキャラクターもイチャラブ指向だけが際立つ中で、リセリシアスシナリオはしっかりとした歩みで二人が惹かれあっていくから、不思議と見ていて飽きません。最初の接触から告白その後まで、不自然さを感じずにエンディングを迎えることができました。徐々に縮まっていく距離感の描写が、比較的丁寧な印象。
 作中の後日談に最も力が入れてあり、このルートが他のルートとは一味違った上位のお話と言って、まず間違いないでしょう。このシナリオだけは、いままでのま〜まれぇどで見られない、中身のあるシナリオとなっていました。その点は十二分に評価していいと考えています。
 会長シナリオもそこそこの出来ではあるんですが、こちらは会長本人の魅力だけで勝負している感を受けました。話自体の魅力は微妙でした。

シナリオ総評

 このお話は大変不恰好です。恋愛を描きたいわけじゃなく、魔王を中心に据えて物語するわけでもなく、まして紅茶なんて殆ど意味がありません。要は、タイトルが殆ど有名無実化しているので、人によっては羊頭狗肉と捉えられても仕方ありません。何よりも皮肉なのは、位置関係的に最も遠いところにいたはずのキャラクター(リセリシアス)のシナリオが、一番充実していたことです。
 私が一つ前にプレイした『ましろ色シンフォニー』は、日常風景の描写やヒロイン視点の多用といった『キスと魔王と紅茶』と似通った部分を持っていました。前者では、これらがうまくまとまっており、話がスムーズに流れていった感があります。
 ところが、『キスと魔王と紅茶』では、まるで詰まった血管の肥大部分のように、それぞれの景色や視点が点在しているから、話の筋が全くと言っていいほど知覚できないの。同日発売の『ましろ色シンフォニー』を先にプレイしてしまうと、つまらないの一言で片付けられても言い逃れはできないでしょう。

 それにしても、行き先選択の画面が、話の枝分かれとなっているにもかかわらず、「特定のルートに入るツールとしての機能しか持ち得ていない」のは、このテのゲームでよくあることなんですけれど、、、、、そろそろ食傷気味の域を通り越した感が強い。この意図的過ぎる分岐は、いい加減にどうにかならないものでしょうか。

 みけおうさん(九曜更紗・八城つばさ・四堂梢)、高苗京鈴さん(七瀬優菜)、さそりがためさん(柊千代子)、ちこたむさん(リセリシアス・三条寺忍)、KENGOUさん(サブキャラ)といった面々が手がけています。
 好みの問題も多分にあるとは思いますが、ちこたむ女史のぷにぷに感は相変わらず健在。「もし触れるとしたら、絶対に柔らかいだろう!!」と誰しも感じるハズ。また、リセリシアスシナリオと絵が持っている雰囲気とでも言うんでしょうか……これらが寸分の狂いもなくマッチしている感じがして、このシナリオのみ存外に評価が高くなってしまいました。
 ただ、全体的に質の高い絵が揃っているのは間違いありません。綺麗という印象をまず最初に感じると思うので、大半のエロゲーマーは抵抗なく受け容れることができると思います。

音楽

 際立つ曲は『月下美人』。聴き心地がよくてBGMにもってこいです。『恋人たち』もいいですね。全体的に癒しを意識した曲が多くて、作品の空気はだいたい伝わるんじゃないかなと思います。
 声には全く違和感はありませんでしたが、『ましろ色シンフォニー』のプレビューで指摘したとおり、「声優はホントに個人の好みと考えている」ので、これに関しては割愛します。

エッチ

 萌えゲーとしての評価は言わずもがな、抜きゲーとしてかなりの評価を得そうな感じ。回想が22シーンと多めで、シチュ萌えできるシーンを数多く取り揃えています。話の内容自体は見ていられないものが多い割に、エロシーンに入るやいなや、優秀な部類に分類されるのが不思議なところ。エロでの頑張りがきいていることもあり、そこで満足できれば、それなりの作品と考えることもできます。ただし、水着の立ち絵があるにも限らず、その類のエッチは殆どないんで、人によってはがっかりするかもしれません。
 エロシーンでやたら女の子がエロくなるのはエロゲーならでは。しかし、この作品に関しては「おいおい、いきなりエロくなりすぎだろ!」という気がしないでもないです。2回目からは結構積極的で、もう3、4回目になるとエロの虜になってますから。純愛ゲーと言うと、初々しいエッチから少しずつ大胆になっていくのが主流だと思ってたんですが、ここまでくると痴態を晒しているくらいのレベル。ウブなビギナーは、もしかしたら卒倒しちゃうかもしれませんね。こうなると、「エロゲーだから許される」というお決まりの文句で誤魔化すに限ります。

 変わったところでは、BL要素が1つだけある点に注目。男性向けのゲーム内容にしては思い切ったことをやってますが、これは明らかに蛇足です。個人的な要望として、忍女の子verはきっちりと書き上げてほしかったですね。好きでBLを見たい人はあまりいないと思うんで、これを最後に持ってくると色んな意味でバッドエンド。リセリシアスエンドの後にプレイすると、とくに酷い目に遭うでしょう。

総評

 シナリオはあまり掘り下げられないのですが、リセリシアスルートだけは他よりズバ抜けて出来がいいです。それだけに、山が一つだけ聳え立ってしまった印象を受けてしまいました。このクオリティを全ルートに求めるのは酷だとしても、他がかような有様では、お世辞にもシナリオ買いはできません。普段からライター買いをするプレイヤーにとっては、目もあてられない惨事であります。
 しかし、萌えとかエロとかを目的にしてるプレイヤー層にとっては、宝の山と言えましょう。絵は質感バッチリでとても綺麗。キャラも魅力的でかわいい。エロもかなり頑張っているし、フェチシズムをくすぐられる。好みは抜きにして、ボイスも違和感なし。当のエッチシーン数は結構な数を用意している……と抜きゲーとしての実用性は、かなり高いです。
 ちなみに、この作品は萌えとエッチを楽しむゲームらしく、略称の「きすまお」をもじって、


キ・・・綺麗さとエッチさにさらに磨きがかかったグラフィック!
ス・・・好きな子と楽しむ、ラブラブ&エロースな毎日!
ま・・・マニアックなエッチシーンも、もちろん完備!
お・・・女の子の気持ちがダイレクトに伝わってくるシナリオ&システム


とパッケージ裏に明記されています。しかし、「お」だけは、「きすま」に比べるとガクッと格が落ちているのは否めません。別に主人公はキス魔じゃないんですが、私が思うに略称は「キス魔」でよかったんじゃないかと思うほど、「お」には説得力がない。
 話の中身が殆どないので、キャラクターは覚えていても、内容のほうはすぐに頭の中で風化していきそうです。萌えゲーというか、「萌えエロ」として受け取ったほうがしっくりくる。なので「シナリオで勝負していないんだな!?」と割り切るべきですね。
 シナリオだけが異様にレベルが低いんですが、それ以外は水準を満たしていたり、大いに上回っている部分(特に絵)もあったりします。足りないものは多かれど、このブランドにしてはまあまあ頑張ったといったところでしょうか。


 これはあくまでもプレビューです。もう一回り大きくしたものを批評空間に投稿しようと思います。


余談

 ちこたむさんのブログでは、なんでリセリシアスがリシアンサスになってるんでしょう?