『悪魔の迷宮』 初感

 夏と言えば怪談。てわけで、すんごく怖い作品をプレイする事が出来て、季節感というものが感じられる時分。


この『悪魔の迷宮』という作品、相当短いらしいんですけど、物語を堪能したくて一気に終わらせる事が出来ませんでした。今まで数々のフリーゲームをしてきましたが、「あれ、なんだか色が違うな」と思わせてくれる作品は本当にごく僅かです。『Brass Restoration』とか『終末によせて』とか『TRUE REMEMBRANCE』とかがそう。こういった‘ノンブランド’の作品は、やるのも楽しいしレビューを書くのも楽しい。応援の意味も込めてレビューを書けるというのは、レビュアー(のつもりっ)として至福のひと時なのかも。

ということで本作のメモ…、というか初感っぽいのをば。ネタバレしてるっぽいので一応伏せておきます。あと、私も最後まではプレイしておりませんので、推測も少し入り混じっております。ごりょーしょーください。




 内容は至極単純です。プレイヤーはヒロインである少女を悪夢のような世界へと叩き落す。そして、選択肢によってそこから少女を救わなければならない。…それだけです。一歩間違えればバッドエンドを迎え、少女は悪夢に飲み込まれてしまい廃人と化すか死んでしまうかのどちらか。昔懐かしい択一型のAVGながら、その内容はブランドものをも上回るほどの求心力があります。

 もっとも、数多のバッドエンドをかいくぐったとしても、最後の最後まで救われない展開に終始しそうな感じがします。個人的には、この状況からハッピーエンドを迎えるよりも最悪のバッドエンドを迎えてほしい。プレイしてみれば分かります、そのほうがエンターテインメントとしては最上級のもの(主にホラー性)を追求できるということが。いやまあ、作者がどういう意図でこの作品を作っているかは100%は把握できかねますが、現時点で私がそう考えているだけです。プレイ後書き直すかもしれません。



さてさて、ともかくこの作品が素晴らしいと思える点を少し書いてみます。内的な要素です。


 一点目はテキストの巧さ。

 ノベルタイプはお話の善し悪しだけではなく、テキストの巧さは非常に重要です。殊にホラーやそれに類するものにおいては、どれだけプレイヤーを引きずりこむかが鍵となっているため、この要素の重要性は推して知るべきでしょう。

そして、この作品はそれが恐ろしいほどに巧い。プレイヤーが主人公である(はず)ことを忘れてしまうくらい、ぐいぐいと引っ張ってくる。その巧さは、叫び声すらもリアルに感じられるほど。

もはや抗う術はありません。一度プレイしてしまえば、やみつきになることは必至です。いやはや実に素晴らしい。



そして、2点目。これは演出に票を投じたいですね。

要は作者が、人はどうすれば興味を示してくれるのか、怖がってくれるのか、驚いてくれるのか…といったことに熟知してらっしゃる。そういった描写が随所にあるからたまらない。これはテキストとも大いに関わってくるカテゴリなのですが、この作品が人をひきつけるだけの魅力をもっている点はこの2点に集約されている、と言っても過言ではないように思います。



 途中までやっての点数評価は、暫定的に95点を入れさせていただきます。もしこの作品を言い換えるならば、極上の満漢全席を欠けた器で食べているようなもの。おいしそうな匂いがしていても、おそらく絵で敬遠されているため人が寄り付かない。また、陵辱ということもあって、門戸がこの上なく狭くなっているのは明白です。つまり絵以外は、人をひきつける要素が存分にあるということ。ここまでハイレベルなものをお作りになられているところですから、もっとプレイヤーが増えれば真っ当な評価がつくでしょう。



ともかくプレイヤーのみなさん…


もし、あなたに少女を愛でる気持ちがあるのなら
小さな手を優しく引いて
悪夢の出口まで導いてあげてください。  (冒頭より)