九州の方言、ことば

 先日友人が東京に出張で来ていたのですが、彼が方言をビクビクしながら使っている(田舎者と思われるのが恥ずかしいらしい。)のを見ると、逆に方言を喋らなくなった自分を感じます。3年も東京にいると次第に慣れて、方言が自分の中から抜けていく気がします。
 郷に入れば郷に従え。皆さんもそんな経験ないですか?私も九州から東京に出てきて、通じないと分かったのがいくつかあります。前に紹介した地元ネタで恐縮ですが、ちょっと記事にしてみます。


◆天ぷらうどん
 魚介の練り物が乗ったうどんのこと。天ぷらうどんと言うと、全国的には海老やかき揚げが乗ったうどんのことを指します。ところが福岡や佐賀では、練り物が乗ったうどんを指します。当地で天ぷらうどんをチョイスすると、かき揚げではなく、必ず魚の練り物が乗ったうどんが出てくるのです。これをその形状から、俗に“丸天”(まるてん)と言います。丸い蒲鉾を想像してもらえればいいでしょう。見た感じ薩摩揚げですが、薩摩揚げとはまた違った味がしておいしいです。
 また、福岡をはじめとする地域ではごぼうが乗った天ぷらうどんが存在し、これを“ごぼ天うどん”と言います。そしてこの言い方と同様に、“海老天うどん”も当然存在します。しかし、“ごぼ天”は練り物ではありません。“海老天”や“ごぼ天”とは、その名の通り海老やごぼうをカラっと揚げたもので、いわゆる“天ぷら”が具として出てきます。これに対し“天ぷらうどん”は“練り物”(丸天)が出てきます。つまり九州では天ぷらという語に二つの意味があるのです。一つは“天ぷら”、もうひとつは“練り物”。九州人はそれを日頃の感覚で使い分けていると言えます。

 関東では練り物+天ぷらという感覚がまるでないので、東京では丸天という言葉が全く通じません。大学の食堂で「丸天ありますか?」と聞いたところ、「もしかして、あんた九州の人かい?」とおばちゃんに尋ねられてしまいました。恐るべし、おばちゃん…!!


◆来る
 「え、方言?」と思われるかもしれませんが、れっきとした方言です。意味は行くこと。「そっちに来るよ〜?」と言えば、「そっちに行くよ〜?」という意味になります。私は佐賀は唐津の人なんですが、電話口で「そっち来ていい?」と言ったところ、「え、何言ってんの?」と返されてしまいました。東京じゃそのままの意味しかないんですね、とほほ…。


ラーフル
 いわゆる黒板消し。鹿児島で多く使われますが、語感からは想像もつきません。鹿児島大学に通っていた従兄から聞いた言葉で、とても印象に残っています。愛媛や岡山でも使われている地域があるそうです。黒板消し以外に言い方があったんですね。


◆離合する、すれあい
 俗に車が狭い道で対向すること。広い道で対向するのは離合じゃありません。九州人の中にも通じない人が多いです。単線の線路で電車同士が待ち合わせをしている状態も、やっぱり“すれあい”と“すりあい”って言います。都心では大多数が複線化しているし道幅も広いので、まず耳にしない言葉です。


◆からい
 九州人は、塩味も醤油味も唐辛子も芥子も、全部“からい”で統一していることに気づきました。“しょっぱい”と“すっぱい”は関東では使い分けるようですが、この感覚は今でも分かりません。九州では、“すっぱい”なんて檸檬と梅干くらいしか使わない気がします。あとは“からい”です。


◆カッター
 切るやつじゃないです、着るやつです。…ってわけでカッターと言ったら、ワイシャツのことを指してました。こっちでクリーニングに出したら全く通じませんでした。


◆がば
 佐賀のがばいばあちゃんで有名になりましたが、あれはれっきとした誤用です。私の感覚から言えば、“がば”というのは「とても」というニュアンスに近いんです。ですから、「すごいおばあちゃん」と言いたければ、“すごかばあちゃん”以外に言い直しようがありません。そもそも「とても」というニュアンスは副詞的ですし、形容詞を用いずに“がば+名詞”を形成する事はまずないので、“がばい”という言葉自体が変です。「とてもすごいおばあちゃん」なら、“がばすごかばあちゃん”と言い直しもきくのですが。最初に聞いたとき、違和感ばかりが残りました。


◆つ
 かさぶたの事です。怪我した時に出来るアレです。あれを“つ”と言いました。なんで“つ”と言うのかはちょっと分かりません。血(ち)の後に出来るから“つ”ってのは俗説です。



色々と言わなくなったものです…。学問上の定義は間違ってるところもあるかもしれませんが、少なくとも私は上に書いたような意味で使ってました。方言ってあらためて考えると面白いですね。