同人ゲームの潮流2〜「ひぐらし/うみねこのなく頃に」に見るコンテンツとコミュニティ〜 レポート

 つい先ほど、日本デジタルゲーム学会主催で行われた公開講座に参加してきました。ここでは、その質問&内容等々をレポートとしてまとめています。発言に関しては、殆ど竜騎士07氏のものです。質問者は省略させていただいておりますが、有馬啓太郎氏(マンガ家、同人サークル「日本ワルワル同盟」主宰。代表作『月詠』)、高橋直樹氏(汎用ゲームエンジンNScripter」制作者)、七邊信重氏(東京大学大学院情報学環 特任助教)、三宅陽一郎氏(ゲーム開発者、DiGRA JAPAN研究委員)となっております。
 不備な点、聞き損ねた点、表現が異なっている点、見にくい点など、多々あるかと思います。ほか、全くの正反対の表現になっている部分などございましたらご一報ください。



1.スタッフの役割分担はどうなっているのか?
竜騎士07(代表、シナリオ、絵)
・BT(ホームページ管理、資料、表情差分)
・八咫桜(プログラム)
・dai(音楽)


……が基本だが、修羅場ではこの限りではない。買出しとかバラバラ。



2.同人とはどういう場所か?
 外見のみでは商業か同人かは分からない。作る過程が異なるので、商業とは違う。売れるものを作る(それが前提となっている)のが商業、面白いから作る(売れたらいいな、程度)のが同人。同人は自己主張が強く、企画段階や着想からして商業とはベースが違う。極端な話、作り手側が面白くなくなれば作らない。



3.同人ソフトの流通に関して
 同人ソフトは、コミケや同人ショップでしか入手できない。流通は商業と同人の大きな違いで、営業部門を失念していると言える(竜:今後真剣に考えるか)。それでも、10〜20年前よりかは流通しやすくなった。当時は内輪ネタで終わっていたものが、今はそれに留まらないものが増えた。



4.ゲーム“ソフト”の頒布に関して
 中身が見えない=同人誌と違って立ち読みできない→ベクターなどweb上での頒布(つまり体験版)が有効である。
 暇潰し編(4本目)から体験版を頒布したところ、ブログや口コミで評価されるようになった。『ひぐらしく頃に』は10年早くても、10年遅くても同じ評価は得られない。ネットの発達も一役買っている。
 商業の口コミ作と同人の口コミ作に明確な相違、規定はない。



5.同人は応援する個人が多いのでは?
 同人がメジャーになると、少し寂しい(笑)。ただ、たとえば100万本売れてるソフトを友人に面白いと言っても、「それくらい知ってる」の一言で片付けられちゃう。マイナーで面白いから口コミになる。評価につながる。
 ひぐらしと東方は、なぜか知名度が高いけれど、コミケではそれよりも面白いソフトもある。なのに評価されないのは、インターネットによって意思が統一した悲劇ではないかと考える。これは誤解であって、情報が集まっているはずなのに情報が集束しているという事態に陥ってる。自分の足で見て、面白いものを探してほしい。



6.同人に入ったきっかけは何か?
 友人の姉が同人作家。「マンガはインクでやるもの」というのが、発端だった。学生時代は、ノートも半分はマンガ、半分は勉強だった。年を経るにしたがって、マンガの割合が増えていった(笑)。先生に課題を提出する時は、マンガのスペースを破って提出してた(会場笑)。ゲーム、マンガ好きのグループは学内でも5‐6人くらいしかいなかったが、晴海のコミケに行ってびっくり。そこら中、愛好家ばっかりだったから。
 以前はLeaf Fightのオリカを作るサークルだった。Expansionはカードゲームの拡張のこと。なので、自分のHNの一部をくっつけて、07th Expansionにした。この頃から、自己表現というものをしていた。
 BT氏:元々TRPGをやっていて、冊子を出そうとしてコミケを知った。当時、Leaf Fightで竜騎士07氏の絵のファンで、郵送でカードを送ってもらってから付き合いが始まり、次第に07thの一員になっていった。オリカサークルの中で、07thは目立つ存在だった。


7.同人サークルの結成はどういう風に行われるか?
 BT氏:人それぞれだ。引き込まれたりとか。
 竜騎士07氏:昔は仲良しグループで作品を作るって感じだったのが、今はモノを作るためにネットで呼びかけ、、、なんてこともある。

Leaf Fightが一段落した時、同人では『月姫』が大ヒットしていた。そこで、ウチの八咫桜氏が感銘を受けた。以前、舞台脚本として書いたがボツになってしまった『雛見沢停留所』を分厚くすれば、サウンドノベルになるのではと考えた。



8.ユーザーとの距離感について
 以前は、コミケごとに全ての人に感想を返していた。


同人→人格でモノが生まれる
商業→組織。ユーザーから見ると、微妙に違うのではないか。
うみねこく頃に』→ユーザーの推理に対して、反論する構成を心がけている。



9.『ひぐらしく頃に』はゲームなのか?


無印→多くのユーザー→解


→そもそも竜騎士07氏のゲームの定義とは←
 コミュニケーションツールであるべきである。その意味では、得点や選択肢がなくても、コミュニケーションできればゲーム足りうる。小説のシャーロック・ホームズは、最後で解答が示されるけど、ひぐらし出題編では、答えが出ずに終わる。よってユーザーは考えなくちゃいけない。
 つまり、誰がやっても同じ方法でしかクリアできないのであれば、ゲームではないという事。RPGでラスボスを倒すパターンが一つしかないのであれば、それはゲームというには怪しい。ひぐらしは、「あいつが犯人」やら「あれはきっとこうだ」という風に、議論して楽しむ。これはRPGでいう「俺はこんなヘンテコなパーティで倒したが、お前はどうよ?」というのと似ている。色々考えて楽しむのが理想的ではないか。
 ひぐらしのインスパイアとなったのは、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(監督:エドアルド・サンチェス、ダニエル・マイリック)と横溝正史の『八つ墓村』。


10.コミュニティーの巨大化について
 BBS内でユーザーに議論させる。ユーザーとユーザー、ユーザーとサークルの交流が生まれる。絵板と文字板同士の交流の中にトラブルが見られるものの、大きな騒ぎになる事はない。それはどのユーザーも作品を愛しているからだ。作品を読み終えて、掲示板を読んでこそゲームではないか。
 同人の根源は「楽しんでいく事」。うみねこの人気投票にある、怪しい人物は誰か投票→1st犯人なし、2nd鯖、3rd戦人。こういうの面白い。楽しい。


11.『ひぐらしく頃に』を発表するにあたって
 抽象的な分け方としては、5話くらいで完結かなあ、と考えていた。綿流し編くらいで全体の構造が見えた。最初は、夏と冬だけで終わらせるなんて豪語していたが、とんでもないことだった(苦笑)。
 ヒットしたという実感が湧いたのは体験版を出してから。つまり、暇潰し編のあたり。プレス数は鬼隠し編が50、綿流し編が100、崇殺し編が200+500だった。暇潰し編は自分(竜騎士07氏)が1000、BT氏が2000だったのが、中を取って1500……がちょっと弱気になって1400プレスすることになった(会場笑)。
 メディア展開で一番最初に来たのは、暇潰し編の最中だった。ドラマCD化の話(高宮プロデューサー)が来て、これは、他のメディアに比べて異例の早さだった(2004夏のこと、他は冬から春)。



12.同人と商業の分岐点は?
 数字をご期待されていると思うが、残念ながら数字ではないと思う。要は、作り手側の意識。



13.同様のヒットを再現する事は可能か?
 私が教えてほしいくらい(笑)。時代の流れにもよる。



14.プレッシャーはあったのか?
 喜びのほうが強かった。目明し編の製作途中にプレッシャーを感じた。お店のほうから予約がきてて、未完成作品が予約できるという現状→俺たちも予約するかという感じになった(会場笑)。これは絶対落とせないな、と。



15.ものづくりに大切な事
 まずクオリティ。よいものを作りたいという気持ち。
 それと納期。これは個人的に大事だと思ってる。コンスタントに作るからいいのだ。不定期であれば、ユーザーも情熱を維持できないから。納期までに、どれくらいのものを作れるか計画する。
 コミケ65を唯一落としてしまったのが悔しい。けど、『ひぐらしく頃に』を制作後、すぐに『うみねこく頃に』に取り掛かったことは、自分でも誇りに思う。
 黄昏フロンティアさんは、自己管理ができていてすごいなあ。


16.職業同人とは?
 コミケで部数優先のサークルさん。自身は職業同人ではない。ある一定以上の頒布数に達すると、趣味人+職業人という意識が芽生える。





高橋直樹氏:質問と応答の様式を勘違いしてた…(会場笑)→高橋氏自身の認識は、税務署が来たら商業とのこと。

竜騎士07氏:高橋氏に感謝。NScripterがなかったら、自分はこの場にいない。




17.ベーマガとは何か?
高橋氏:対応機種の多さ。BASICプログラムの取っつきの良さ。評論の多さ。アドベンチャーゲームのゲーム性についての議論。

竜騎士07氏:実は、小さい頃はファミコンゲームウォッチも禁止されていた。そんな中で、パソコンだけはOKだったので、PC8001をいじっていた。初期信長の野望で訓練コマンドの数値を10から1000変えてみたところ、自軍もすごいことになったが、CPUもとんでもないことになって、とにかくすごいゲームになった(会場笑)。
 こういうのもベーマガとかがあったからこそ、色々といじることができた。



18.ゲームエンジンの発展について
 垣根の低い表現方法は歓迎する。これからの日本では、才能の鉱脈が見つかるかも。



19.ゲームエンジンの展望について
 サウンドノベルは、ゲーム・アニメ・小説・マンガのイイトコを持っているけど、一番作りやすいのではないか。しかも安価でいい。今後、サウンドノベルというジャンルが確立されるだろうと予測している。



20.NScripterに要望する事
 BT氏:バグ、エラー判定の機能。ひぐらしでも強制終了が起こって、あわてて修正パッチを出したので、可能であれば搭載してほしい。
高橋氏:がんばります(会場笑)



21.日常生活の体験から影響された事は?
 沢山ある。ひぐらしに登場する大石蔵人は、会社の先輩がモデル。「よいお年を」という口癖はそのまんま。前江戸川区長と公由の爺ちゃんの苗字は全くの偶然(笑)。



22.同人の場での学び
 経験則として学んだ事がある。愛のある二流は愛のない一流に勝るということ。



23.もしサークルのメンツを増やすなら?
 要社会経験3年以上&情熱。



24.ユーザーへの希望は?
 色々な作品に意欲的にトライしてほしい。コミケでは島中にも目を向けてもらいたい。これは商業作品についても言えることで、小さい会社の作品も手にとってほしい。王道が出来てきた理由の一つではないか。



25.掲示板でのユニークユーザー増加による影響は?
 本人にも分からない。年齢の幅については広がりが見られる。



26.質問内容忘失…
 ひぐらしラノベ三冊で1つの編ができている。つまり、テキスト量が多い。おかしなことに、サウンドノベルでは、テキスト量が多くなれば多くなるほど、評価に繋がる傾向がある。つまり、サウンドノベルは大作でなければならないという空気がある。Key、Leafの大型化(テキスト増加)なんかは、これと大いに関係があるけど、これは歴史の話になっちゃうのでここまで。
 たとえば、ロードランナーのステージ数みたいな感じで、多ければいい……というのはサウンドノベルではおかしい。この点は危惧している。
 でも、短編は値段が付けにくい。それこそひぐらしが1000円で頒布されているのであれば、短編はどれくらいの価値があるのかは不明。現状を鑑みなければいけない。



質問終了。散会。以後懇親会(筆者は参加してません)。