[雑記]ホームレス歌人
突然だが、公田耕一という歌人をご存知だろうか。このところ、朝日新聞(東京版)紙上の歌壇の欄でひと際目立つ存在だ。住所欄には地名などはなく、ただ「ホームレス」と明記されているそうである。なんとも物がなしい。そのため、「ホームレス歌人」として、読者の間では知る人ぞ知る存在となっている。氏は
(柔らかい時計)を持ちて炊き出しのカレーの列に2時間並ぶ(12/08)
という歌で入選して以来、鬼気迫る一首で選者を唸らせている。複数の選者が評を述べるほど、その一首に込められた思いは凄まじい。以下、氏の力作を取り上げる。
鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ棄てたのか(12/22)
パンのみで生きるにあらず配給のパンのみみにて一日生きる(01/05)
水葬に物語などあるならばわれの最期は水葬で良し(01/05)
日産をリストラになり流れ来たるブラジル人と隣りて眠る(01/19)
親不孝通りと言へど親もなく親にもなれずただ立ち尽くす(01/26)
哀しきは寿町と言ふ地名長者町さへ隣りにはあり(02/16)
ホームレス襲撃事件と派遣村並ぶ紙面に缶珈琲零す
美しき星座の下眠りゆくグレコの唄を聴くは幻
鍵持たぬ生活に慣れ年を越す今さら何を脱ぎ棄てたのか
一日を歩きて暮らすわが身には雨はしたたか無援にも降る
など、心にズシンと来る一首が多い。氏は今日付けの短歌欄にも、
ホームレス歌人の記事を他人事のやうに読めども涙零しぬ(03/09)
と、ある種複雑な心境を詠んでらっしゃった。同日、他の朝日紙読者からの返歌も秀逸である。
公田さんあなたを知るまで郵便は届いて普通と思っていました(東京都) 辻好美
このように、氏が読者に与える衝撃は極めて大きい。以下、同様の返歌である。
炊き出しに並ぶ歌あり住所欄(ホームレス)とありて寒き日(豊中市) 武富純一
屋根があるだけの違いよ公田さん年金生活薄氷の上(北九州市) 中村テルミ
パンのみみで一日生きるホームレス公田さんを待つ零下となる夜(加古川市) 藤田かのえ
屋根のある下でグーグル検索をしている自分が恥ずかしくなる。日々の生活に感謝と自省を心がけたい。