『戦国ランス』はなぜボイスレスだったのか〜私的考〜

エロゲNG集(ニコニコ動画より)


 よくこれだけ蒐集したものだなあと感心してしまいます。聞いていると、なんだか情欲に塗れてエロゲーをプレイしている自分が、どうにも情けなくなってきますね。いやまあ、高潔な状態を保ちつつエロゲーをプレイするなんて、どこぞの聖人君子なんだと問われそうなものですが。
 もちろん作品にもよりますな〜。けれど、エロゲーをプレイする時は、もっと下卑た態度で臨んでもいいのかもしれない。声優さんの迫真の演技を聞くたびに、そう感じずにはいられません。




 そんな御託はさておき、ボイスと言えば、昨年……いや一昨年の末から地味に大きな議論が巻き起こったゲームがありましたね。名づけて“ランスボイス論争”。この話題も散々出尽くした感が強いけど……。今日は、自分の中での纏めも兼ねて、これについて少し考えてみたいと思います。










 事の発端は一昨年の暮れ、『戦国ランス』(アリスソフト)がボイスレスでリリースされたことに始まる。パートボイスどころか、全く声を発してくれないキャラクターたち。フルボイスがオーソドックスなこのご時世にあって、今さらエロゲーでボイスレスなのはどういうことか。喋らない彼らに疑義を抱いたユーザーは、少なからぬ数に上った。やはり「謙信ちゃんにエロボイスを!」とか「シィルの生の声を聞いてみたい…」などと考えたユーザーはいたらしく、活発とは行かないまでも、ネット上で濃い語らいがあった。
 その反面、「ランスシリーズにボイスはいらない」という意見も根強かった。ある意味冷めた意見を持つ古参風を吹かせるユーザーは、おしなべてボイス支持説に懐疑的であった。ゆえに、事は二分化の様相を呈することになった。







 ボイスは現代のエロゲーにとって有用である。



・濡れ場の盛り上げに欠かせない。エロをよりエロく見せることができる。
・キャラクターを立体的に魅せ、造詣に深みを与える事ができる。
・臨場感をより一層醸し出す。音楽と通底して、相乗効果を生み出すことができる。
・キャラクターへの感情移入度は、ボイスの有無によって変わってくる。



このように、ボイスがエロゲーに対して占めるウェイトは、無視できかねるものがある。一見すると、フルボイスというのはプラス要素ばかりで、マイナスの材料は全くないように感じられる。






それにもかかわらず、なぜアリスソフトは、『戦国ランス』にパートボイスすら搭載しようとしなかったのだろうか?









 そこに理由を求めるならば、大小二つの事が考えられる。

 まず大きな点としては、この作品が「地域制圧型シミュレーション」だった事による。
 現時点において、フルボイス仕様のエロゲーが大勢を占めているとは、上記したとおりである。しかし、それはヴィジュアルノベルを中心としてテンプレート化されているに過ぎない。いかにメリットがあったとしても、ありとあらゆるゲームが必ずしも該当するはずもない。ヴィジュアルノベルやアドベンチャーゲームのような、ドラマ性を追求した作品が支配する力は、相変わらず強い。実際、キラータイトルの多くは、フルボイス仕様のものが多い。だから、ユーザーの中には、エロゲーにはボイスが必要不可欠な要素に思えてしまう者もいる。さも付属していることが当たり前、と錯覚させられているのだ。





 しかし、ノベルゲーム以外のたとえばRPGSLGの領域にまでボイスが必要かと言うと、必ずしもそうと言えない実態がある。
 少し例を用いてみよう。RPGSLGは、ノベルにはあまり見当たらないゲームシステムという評価カテゴリを内包している。エウシュリーソフトハウスキャラザウス本醸造、戯画などの作品がこれに該当する。これらが制作したゲームは、大まかに言ってシナリオパート(ADV)とゲームシステムパート(RPGSLGSTG)に分けられるが、さて。ユーザー諸兄は、『巣作りドラゴン』(ソフトハウスキャラ)や『永遠のアセリア』(ザウス)を取り上げてADVと判断するだろうか?―――否、誰もがRPG、またはSLGと答えるのではないか?
 SLGRPGの利点は‘遊べる楽しさ’がふんだんに盛り込まれることだ。好きなキャラクターを思いのままに育て上げ、無敵のユニットへと成長させるもよし。あるいは、自らに制約を課して、高い難度でゲームをプレイするもよし。またあるいは、アイテム収集に必死になって、クリアを忘れてしまうなんてことも……。これらは、ADV単独では決して味わうことができない、‘ならでは’の楽しみであろう。だから、巣作りもアセリアも、自然とRPGSLG側の領域に収まってしまうのである*1
 この‘ならでは’の面白さを現出している背景には、良好なゲームシステムとシナリオ、ゲームテンポ、さらにゲームバランスの絶妙な匙加減が隠されているのである。?「シナリオがよかった。ゲーム性もよかった」から楽しかったのではない。「ゲーム性がよかった。シナリオもよかった」から楽しめたのである。









 ところで、ここにボイスという異質なものが充満するとどうなるか。
 ボイスというのは聞いて何程のものである。スキップ機能を駆使すれば、それはボイスレスと何ら変わりない。しかし、ボイスを聞くということは、その分のプレイ時間が絶対的に増えることに他ならない。
 エロゲーにカテゴライズされたRPGSLGの多くは、今や複数回プレイを半ばユーザーに義務付けている。複数回プレイしなければ、攻略できないヒロインの存在ゆえに、完走を目指すユーザーは、何度も何度も似た行為を繰り返す。これは、紛れもなく作業プレイであるからして、テンポの良さは、この手のゲームにとって命綱であるとも言える。しかし、ボイスはプレイ時間の増加を招く。時と場合によっては、RPGSLGのテンポの良さを阻害することさえあるだろう。
 「地域制圧型シミュレーション」を自負する『戦国ランス』の楽しみは、アリスソフトが長年培った良質な「ゲーム性」のサーベイと、手軽な中毒性にあった。ところが、ボイスによって、ただでさえ長いプレイ時間を飛躍的に増加してしまえば―――ゲームがどう変容するか。代償として、ゲームシステムの劣化、ゲームテンポの鈍化を招くことは容易く想像できるはずである。(おそらく)思案を重ねたアリスソフトは、最終的に「(ボイスを)つける必要はない」と判断した。ユーザーのモチベーションとキャラの造詣とを秤にかけたのだろう。賢明である。









 そうすると、必要な部分だけボイスをつければいいんじゃないか、という意見が必ず出てくる。パートボイスを推進するユーザーの主張は、至って単純明快である。彼らは、「テンポが悪くなるなら、濡れ場だけ声をつければいいじゃない」と口を揃える。意外にも、これが実に理に適っていて興味深い。

 さて、言い方はともかくとして、この指摘はもっともな話なのだ。実際に、エウシュリーなどは男性キャラにはボイスをつけず、意図的に女性の造詣を前面に押し出している節がある。思えばアリスソフトも、『大番長』において、濡れ場を中心としたパートボイスを採用していた。このように、必要なところだけにボイスを配したエロゲーもいまだ存在している。確かに、この措置ではゲームテンポも悪化しないし、何より回想に実用性が生まれるという意味合いで、非常に有効だと思われる。






 それでも、アリスソフトが、頑として『戦国ランス』にパートボイスすらつけなかった理由は、もっと別のところにあると思う。
 『戦国‘ランス’』というのは、なにも一つの物語で終わっているわけではない。このシナリオにはもっと先があるし、もっともっと前があった。さらに言えば、ランスシリーズは上杉謙信のための物語ではないし、山本五十六のための物語でもない。彼らのエンディングは、無数の分岐点の一つ。だから本編とは言っても、半ば外伝的な存在なのである。
 古参のユーザーは、口を揃えてこう言うだろう。「これは、ランスとシィルの物語なのだ。だから、ボイスがなくても一向に構いやしないのだ」と。


 この英雄譚は、ランスとシィルを抜きにしては語れないものだ。ランスシリーズがリリースされて早や19年、ゲーム中に登場人物の声を聞いたユーザーは誰一人としていない*2。それが現在のフルボイス化の波に押されてボイスをつけてしまったのでは、連綿と受け継がれてきたランスたちの像が壊れるかもしれない。これは懐古的な見方であるが、今さらボイスを突きつけられても、それはそれでレスポンスに困る。これがベテランたちの本音ではあるまいか。
 アリスソフトのブランドカラーには、ファンを大事にする精神が含まれている。実際に、ゲームとしての完成度は業界でも抜きん出ており、その作品群は殆どファンの期待を裏切らない。新規ユーザーを獲得するには、もっと見栄えを良くしてもなんら不自然なことではない。しかし、ランスシリーズだけはその長さから考えて、ベテランの牙城なのである。





 ここまでを纏めると以下の事が言える。

ボイスレスは、ゲームテンポを重視した結果である。また、ゲームの途中で、ユーザーに飽きさせないための措置である。
ゲーム版ランスシリーズにはボイスはつかない。初代からの足跡を思えば、ボイスをつける事はできない。
・ランスシリーズとしても、『戦国ランス』としても、ユーザーに楽しんでほしいという願いが込められている(これは推測)。





 ボイス慣れしてしまったユーザーにとって、ボイスレスというのは、受け入れがたい現実に違いない。今や大半のエロゲーはフルボイスがデフォルトだから、新規はおろか、古参ユーザーも、ついていて当たり前のものと考えがちだ。太古は脚光を浴びたパートボイスも、今や“パート”であることが水準的にマイナス材料となった昨今、ボイスの存在感は無視できないまでに変貌を遂げた。だから、今まさにエロゲーの門を叩いている人にとっては、老舗のボイスレス仕様というのは、強い違和を感じるのだろう。
 そのことは認めよう。ただ、周知して然るべきは、エロゲーの中にはボイスを受け付けない作品もあるということ。ランスシリーズは、それに加えて過去の息吹をも脈々と受け継いでいるのだと信じたい。


雑談・・・そもそも「がはははは!!とーーーー」の声が想像できません。多分声優さんに喋らせるために書かれた台詞じゃないですね、これは。

*1:もちろんシナリオオンリーの評価もあるだろう。しかしそれは、ごく少数の意見であると思われる

*2:ドラマCDやOVAは、ゲームと評価基準が異なると考える。よって、ここではゲームだけに焦点を当てている。